RYU_髙田政義
2020.05.11
舞台や、ライブ、フェス、そこに光るスターがいるということは、照らす人がいる。今回インタビューしたのは、そんな照らす人。RYUの東京支社代表の髙田政義は、演劇カンパニーのチェルフィッチュ、SuchmosやROVOをはじめとするバンドの照明デザインを担当している。幅広いジャンルの案件を担当する髙田はどんなきっかけでこの世界に入ったのだろう。
−照明に興味を持ったきっかけを教えてください。
大学進学をきっかけに長野から京都に行きました。でも、大学に馴染めずに辞めたんですよね。その頃から、京都大学西部講堂(以下、西部講堂)で照明っぽいボランティアをしていたんです。なんちゃってですが(笑)。その時に、光って面白いなあって思って。あと、自分の将来を考えたときに、髙田政義って名前が出る、自分の爪痕を残せるような仕事がしたくなった。それくらいから、テント芝居について行ったり、渋さ知らズについて行って雑用をしたりしていました。
−アングラ系からのスタートだったんですね。
当時アルバイトをしていたのも、フリージャズのバーで。そこには西部講堂で知り合った人とか、維新派の役者さんが来たり。そんな人たちに揉まれていました。だから、西部講堂が無ければ今の私はないと思っています。
−それからは、どうされたんですか。
維新派や渋さ知らズに一生ついて行こうかな、と考えました。でも、それと同時に、独学で照明を続けることには限界があるんじゃないかとも感じていました。どこかに就職するか、大学に入って建築やランドスケープを学ぶか、悩みましたね。東京のテレビ局のADにならないかというお誘いもありました(笑)。
−いろんな道があったんですね。
そうですね。東京の照明会社の面接も受けに行きました。そこで面接をしてくれた方が、京都に住んでいるなら、京都の会社に行ったらいいんじゃない、と紹介してくれたのがRYUだったんです。さっそくRYUに面接に行って、学校に通うべきか、就職すべきか迷っていることを話しました。すると、「学校に行ってもお金の無駄になるかもしれないし、それならうちで働きながら勉強した方が、お金も貰えるし。うちに来れば」って言ってもらえて。西部講堂でやっていたとはいえ、ほとんど未経験で、業界用語もわからないところからのスタートでした。「ピン(※)やったことあるか」って言われて「ピンって何ですか」みたいな(笑)。それが20年弱前の話です。
(※)ピンスポットライト
−京都でRYUに入ってから、東京に来たのはどんな経緯だったんですか。
10年ほど前に、一人で東京に来ました。会社に言われたのではなく、自分から。東京での仕事が増えたこともありましたが、もっと自分の仕事の幅や、視野を広げるために環境を変えたかったのが大きかったかな。
−今はどういったお仕事をされていますか。
照明のデザインからオペレーションまで担当しています。コンサートや、ダンス、美術作品の展示など、ジャンルは多岐に渡ります。最近は少しずつ芝居も増えてきましたね。図面を引いて、仕込みをして、オペレーションをする。
−オペレーションまでしているんですね。
任せる時もあるんですけど、やっぱりオペレーションまでやりたいんですよね。デザインする時って、舞台に出た光を想像しながら図面を引きます。そして、その光を実際に出すのは自分でありたい。そうすることで、言葉や数字では表せない、観念的なものを光に乗せることができると思ってて。だから、私自身の表現でもあるんですよね。自分でデザインした光を操って初めて、それが消化される感じがしますね。その喜びは、一種の自己満足やセラピーに近いかも。でも、若い頃に比べたら、自分を出すことに執着しなくなりました。照明の仕事って、照らされる人やモノの魅力を引き出すことだと思っているので。
−照明のお仕事の醍醐味ってなんなんでしょう。
私たちがやっていることって、ライブで起こっていることなんですよね。その場に行かないと感じることができない、空間の力みたいなのがあると思うんです。そんな部分も含めてデザインできるのは、この仕事の楽しさの一つですね。光って、記憶には残るけど、映像でも写真でもそのままは伝わらない。そういう儚さが好きです。
−RYUで、どんな人と一緒に働きたいですか。
どんな人がいい、とかは特にないんですよね。職場としては女性が多めですが、だからと言って男性に来て欲しい、というわけでもなく。RYUにはいろんな人がいるべきだから、いろんな人に来て欲しいって思います。そんないろんな方が働きやすいように、働き方も希望に応じて検討しています。
−RYUで働くことの、他の事務所にはない楽しさって何でしょうか。
仕事の幅が広いから、いろんな業界の方に会えることですね。RYUでは、ジャンルの担当が決まったり、固定のチームもないので。製薬会社の人と打ち合わせした翌日に、アーティストのツアーのリハに行ったり。その次の日には、美術館の方とお話したり。
−日本だけじゃなくて、海外のお仕事もされていますよね。
そうですね。だから、日本全国、海外まで行けることも仕事の面白さの一つかも。東アジアの国々をはじめ、インドネシア、アメリカ、メキシコ、フランス、イギリス、スペインなどに訪れました。
光や空間演出って、その場にいないと感じることができない。
映像でも、写真でも、そのままは伝わらないもの。
それは儚くもあるが、ステージの記憶を、鑑賞者により鮮明に残す。
そんな舞台をデザインすることが、私たちの仕事だ。
RYUで働くことは、様々な「ハレ」の場に立ち会い、誰も見たことのない景色を生み出すことだ。